「次は、里中チームからの報告です」
年度末の全社報告会。大会議室には、各部門の責任者たちが集まっていた。前列には溜池元部長の姿も。美咲は深く息を吸い、ゆっくりと立ち上がった。
心の中では、妖怪たちが見守っている。
かつての不安と躊躇を教えてくれたオドオド坊主。
より高みを目指す厳しさを示してくれたダメダメ姫。
可能性への希望を灯してくれたキラキラ天狗。
前進する勇気をくれたガッツ童子。
そして、純粋な喜びを思い出させてくれたワクワク座禅。
「私たちの挑戦についてお話しさせていただきます」
一年前の自分には想像もできなかった確かな声が、会議室に響く。それは、妖怪たちとの調和が生み出した、本当の自分の声だった。
「このプロジェクトは、従来の常識を覆す試みでした」 スクリーンには、チームの成果が映し出される。
「しかし、私たちには確信がありました。お客様が本当に求めているものを、私たちなりの方法で届けられるという」
キラキラ天狗が美しい光を放ち、その輝きが美咲の言葉に力を与えていく。 数字の説明をする時は、ダメダメ姫の細やかな目配りが、より説得力のある説明を可能にしていた。
「結果として、目標を大きく上回る成果を上げることができました。しかし、私が最も誇りに思うのは、数字ではありません」
美咲は一瞬言葉を置き、チームメンバーを見渡した。
「メンバー一人一人が、自分の中にある可能性を信じ、挑戦する勇気を持ってくれたこと。それこそが、私たちの最大の財産です」
報告会後、カフェに向かう道すがら、美咲は不思議な予感を感じていた。 案の定、ワビタンは最後の席についていた。
「素晴らしい報告でしたね」 ワビタンの笑顔には、どこか深い満足感が漂っている。
「ワビタンさん…」 美咲は言葉を探した。
「もう、来なくていいんですよね?」
「そうですね」 ワビタンは静かに頷く。
「あなたの中の妖怪たち、もう十分に強くなりました。そして、何より…」
「何より?」
「彼らが、あなたの大切な仲間になった。もう、檻は必要ありません」
その時、美咲の心の中で、妖怪たちが最も美しい姿を見せた。 それぞれの個性を保ちながら、完全な調和を生み出す光の輪。