早朝のオフィス。美咲は鈴木と向き合っていた。
「私、気づいたんです」 心の中で妖怪たちが見守る中、美咲は静かに、しかし確かな声で語り始めた。
「これまで、マネージャーという役職に縛られすぎていました。でも、本当は…」
「本当は?」 鈴木の目に、かすかな期待の色が浮かぶ。
「お客様の課題を解決することが、純粋に好きなんです。チームのみんなと一緒に、新しい価値を作り出すことが」
ワクワク座禅が温かな光を放ち、その光が美咲の言葉に力を与えていく。
「私、鈴木さんの意見を聞きたいんです。このチームをどうすれば、もっと…」
「おっ、いいぞ!」 ガッツ童子が跳び上がる。
「やっと自分から動き出したな!」
会話は予想以上に弾んだ。鈴木の目も次第に輝きを増していく。
「実は私も、ずっと考えていたことがあって…」
その日の午前中のチームミーティング。 美咲は深く息を吸い、切り出した。
「山田くんの新規プロジェクトの提案について、私からの考えを話させてください」
「え?」 チームメンバーの目が一斉に美咲に向けられる。
いつもなら「検討します」で終わるはずの場面。
「だ、大丈夫かな~」 オドオド坊主が心配そうにつぶやく。 しかし今や、その不安は慎重さへと昇華されていた。
「このプロジェクト、リスクは確かにあります。でも、大きな可能性も秘めている。具体的には…」
美咲は、徹夜で練り上げた自分なりのプランを説明し始めた。 「やりたい」という純粋な思いが、これほど明確な言葉になることに、自分でも驚いていた。
「リスクを最小限に抑えながら、段階的に進めていく方法を考えてみました」 美咲の説明に、会議室の空気が少しずつ変わっていく。
「すごい…」 山田の目が輝きを増す。
「里中さん、この部分についてもう少し詳しく…」
「私からも提案があります」 鈴木が前のめりになる。
「この部分とこの部分を組み合わせれば、もっと効果的かもしれません」
キラキラ天狗が嬉しそうに舞い上がる。
「見てごらん!みんなの中にも、同じ炎が灯り始めているよ」
会議室は活気に満ち、ホワイトボードはアイデアで埋まっていく。美咲の心の中で、ワクワク座禅が静かに微笑んでいる。
「ちょっと待って!」 オドオド坊主が声を上げる。
でも、それは以前のような萎縮した声ではない。
「ここの部分、もう少し丁寧に確認した方が…」
「そうね」 ダメダメ姫も、珍しく建設的な口調で。
「慎重に進めることも大切だわ」
夕方、いつものカフェで。
「随分と生き生きとしていますね」 ワビタンが優しく微笑む。
「妖怪たちも、ずいぶん表情が変わりました」
確かに、心の中の妖怪たちは変化していた。
オドオド坊主の不安は「慎重な検討」に。
ダメダメ姫の否定は「より良い提案」へのアドバイスに。
そして、新しい妖怪たち―キラキラ天狗、ガッツ童子、ワクワク座禅―が、それぞれの個性を発揮しながら、美咲の中で調和を保っている。