「里中さん、うまくいきました!」
プロジェクト開始から3ヶ月。山田が飛び込んでくるように報告に来た時、美咲の心の中の妖怪たちは、それぞれの形で喜びを表現していた。
「やったぜ!」ガッツ童子が赤い法被を翻して踊り始める。
「輝かしい成果だね!」キラキラ天狗が空中で優雅な舞を披露。
「ホッ…」オドオド坊主が安堵の溜息。
「まあ、悪くないわね」ダメダメ姫が小さな笑みを浮かべる。
そして、ワクワク座禅は温かな光を静かに放っていた。
クライアントからの第一フェーズの評価レポートには、予想以上の好評価が並んでいた。
「本当に斬新なアプローチですね。特に若い層の反応が予想以上です」 大手企業の担当者からのコメントを読みながら、美咲は温かいものが込み上げるのを感じた。
「でも、これはまだ序章ですよ」 美咲は山田を見つめ返した。
「次はもっと面白いことができるはず。山田くんなら、きっと考えついているでしょう?」
「実は…」 山田の目が輝きを増す。
「いくつかアイデアがあるんです。ただ…」
「ただ?」
「従来の方法とは、かなり異なる提案になってしまって…」
その時、美咲の心の中で新しい変化が起きた。妖怪たちが、まるで共鳴するように光り始めたのだ。
「面白そうじゃないか!」(ガッツ童子)
「新しい可能性が見えるわ」(ダメダメ姫)
「確かに怖いけど、ワクワクする~」(オドオド坊主)
「その閃きを大切に!」(キラキラ天狗)
「純粋な思いが宿っている」(ワクワク座禅)
「聞かせてください」 美咲は自然な笑顔で答えた。 「山田くんの新しい発想を」
その日の夕方、カフェでワビタンと向き合う美咲。心の中の妖怪たちは、まるで小さな祝宴を開いているかのように賑やかだった。
「随分と楽しそうですね」 ワビタンが、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。 「あなたの中の妖怪たち、互いを受け入れ、響き合っている」
「はい」 美咲は頷いた。 「不思議なんです。以前は対立していた感情が、今は…」
「調和していますか?」
「そうなんです。オドオド坊主の不安が、むしろ丁寧な検討を促してくれる。ダメダメ姫の厳しい目が、より良い提案へのヒントをくれる。そして…」
美咲は言葉を探る。 「チームのメンバーの中にも、同じような変化が起きているような気がするんです」
「ほう」 ワビタンの目が、深い理解を湛えて輝く。
「山田くんの大胆な発想、鈴木さんの慎重な提案、新入社員の佐藤くんの素直な疑問。それぞれの個性が、以前より生き生きと表現されるようになって…」
「それこそが、本当の共鳴ですね」 ワビタンは窓の外を指差した。 「見てごらんなさい」
夕暮れの空で、鳥の群れが美しい編隊を組んで飛んでいく。
「鳥たちは、それぞれのリズムを保ちながら、全体として調和を生み出している。チームも同じです」
その時、美咲の心の中で、妖怪たちが不思議な輪になって手をつないだ。
オドオド坊主の震えが波紋のように広がり、ダメダメ姫の気品ある所作がそれを整えていく。ガッツ童子の情熱がキラキラ天狗の光と混ざり合い、ワクワク座禅の温かな光が全体を包み込む。